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大分地方裁判所 平成5年(ワ)124号 判決

原告

山口米子

ほか二名

被告

三ケ尻泰章

主文

一  被告は、原告山口米子に対し金一四五五万八二〇二円、原告山口勝利及び原告山口貴弘に対し各金六八二万九一〇〇円並びに右各金員に対する平成三年四月八日から支払ずみまでいずれも年五分の割合による金員を各支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を被告の、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告山口米子に対し、金一七二三万〇五六一円、原告山口勝利及び原告山口貴弘に対し、各金八一七万五二八一円並びに右各金員対する平成三年四月八日から支払ずみまでいずれも年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という)の発生

(一) 発生日時 平成三年四月八日午後九時五五分

(二) 発生場所 別府市石垣東三丁目七番一七号

マルシヨク石垣店先路上

(三) 加害車両 普通乗用車(大分五七ね二八八四)

右運転者 被告

(四) 事故態様 山口貞夫(以下、単に「貞夫」という)が前記道路を歩行横断中加害車両に跳ねられたもの。

(五) 結果 本件事故による頭部外傷(脳挫傷、脳内出血、頭蓋骨骨折)、急性循環不全による低酸素脳症のため、いわゆる「植物状態」となり、その後、平成六年三月一日死亡したものである。

2  責任原因

(二) 被告は、自己の運行の用に供するために加害車両を運転していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任を負う。

(二) また、被告は、前方の安全に注意しながら運転すべき義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故を惹起させたものであり、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

3  損害

(一) 貞夫の損害 合計金七〇七二万六四〇二円

(1) 治療費 金一九八万五二三〇円

貞夫は、平成三年四月八日、九日を大分県厚生鶴見病院にて、同月九日から死亡した平成六年三月一日までフエニツクス脳神経外科病院にて入院治療したものであり、平成四年二月分以降の治療費は自己の社会保険で支払をしてきたものであるところ、死亡までの治療費の合計は金一九八万五二三〇円である。

(2) オムツ代 金六一万七五〇〇円

貞夫は、死亡するまでいわゆる植物状態であり、排尿排便のためのオムツを必要としたものであるところ、オムツ代として毎日五〇〇円ないし一〇〇〇円の支出を余儀なくされたものであり、その支出合計は金六一万七五〇〇門である。

(3) 入院雑費 金一四八万二六〇〇円

貞夫は、本件事故により、その事故日である平成三年四月八日から死亡した平成六年三月一日までの合計一〇五九日間の入院を余儀なくされたものであるところ、入院雑費として一日当たり一四〇〇円が妥当であるから、入院雑費合計は金一四八万二六〇〇円となる。

(4) 休業損害 金九五九万七七三二円

貞失は、有限会社甲斐工務店に勤務していたものであり、平成二年分の給与所得は合計金三三〇万八〇〇〇円であつたところ、本件事故により、その事故日から死亡までの合計一〇五九日間休業を余儀なくされたから、死亡までの休業損害は金九五九万七七三二円となる。

(5) 死亡による逸失利益 金二五四二万七一四〇円

貞夫は、本件事故により、いわゆる植物状態となる後遺症を負い、その後死亡したものであるが、その年収は金三三〇万八〇〇〇円であり、死亡当時は五二歳であつたから就労可能年数は一五年であり、新ホフマン係数の一〇・九八〇八を乗じて、三割の生活費控除をして、逸失利益を計算すると、金二五四二万七一四〇円となる。

計算式:3,308,000×(1-0.3)×10.9808

(6) 入院慰謝料 金三五〇万円

貞夫の前記入院に伴う慰謝料としては金三五〇万円が相当である。

(7) 慰謝料 金二七〇〇万円

貞夫は、本件事故により、いわゆる植物状態とされ、約三五か月間の入院の後、死亡したものであるが、一家の支柱であつた貞夫が、最愛の妻子を残したまま、かかる悲惨な状態のうちに死に至つたその無念さは筆舌に尽くしがたいというべく、その慰謝料としては、金二七〇〇万円が妥当である。

(8) 葬儀用費用 金一〇〇万円

貞夫の葬儀に伴う費用として金一〇〇万円が相当である。

(9) 文書代 金三〇〇〇円

死亡診断書として金三〇〇〇円の支出を余儀なくされた。

(10) 検査代 金一万〇二〇〇円

治療費以外の検査代として合計金一万〇二〇〇円を別府中央病院に支払つた。

(11) 死後処置料 金三〇〇〇円

死後処置料として金三〇〇〇円をフエニツクス脳神経外科病院に支払つた。

(12) 医師に対する謝礼 金二万円

フエニツクス脳神経外科病院の主治医に対し、謝礼として金二万円を支払つた。

(13) 禁治産宣告申立ての際の鑑定料 金八万円

貞夫に対して禁治産宣告の申立てをした際、大分家庭裁判所に対して、鑑定費用として金八万円を納付、支出した。

(二) 損害賠償請求権の相続

貞夫は、平成六年三月一日死亡したので、原告山口米子(以下、単に「原告米子」という)が配偶者として二分の一、原告山口勝利(以下、単に「原告勝利」という)及び原告山口貴弘(以下、単に「原告貴弘」という)が子として各四分の一の割合で、被告に対する損害賠償請求権を相続取得した。

(三) 原告ら各固有の損害(慰謝料) 合計金五〇〇万円

原告米子はその最愛の夫を、原告勝利及び原告貴弘はその最愛の父を、本件事故によりいわゆる植物状態とされ、長期入院加療の甲斐もなく、そのまま悲惨な状態のうちに生命を奪われる結果となり、計り知れない精神的苦痛を被つたものであつて、民法七一一条に基づき、慰謝料として、原告米子は金三〇〇万円、原告勝利及び原告貴弘は各金一〇〇万円を請求する。

(四) 損害の填補 金三〇〇〇万円

貞夫は、自賠責保険より、これまで金三〇〇〇万円を受領した。

(五) 弁護士費用 合計金三〇〇万円

原告らは、本件訴訟の遂行にあたり、これを弁護士に委任せざるをえなかつたもので、本件事故と相当因果関係ある損害として、貞夫固有分として金二六〇万円(前記相続により、原告米子に金一三〇万円、原告勝利及び原告貴弘に各金六五万円となる)、原告米子固有分として金二四万円、原告勝利及び原告貴弘分として各金八万円の合計金三〇〇万円を弁護士費用として請求する。

4  過失相殺

本件事故の態様に照らすとき、被告と貞夫との過失割合は八対二であるとするのが妥当である。

5  よつて、原告らは被告に対し、損害賠償請求権に基づき、原告米子に対し金一七二三万〇五六一円、原告勝利及び原告貴弘に対し各金八一七万五二八一円並びに右各金員に対する本件事故発生日である平成三年四月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張等

1  請求原因第1項の事実のうち、(一)ないし(四)は認める。

同(五)は明らかに争わない。ただし、本件事故が貞夫の死亡に寄与した因果関係は、術前、術後の経過等に照らし、せいぜい八割程度に過ぎないというべく、損害額の算定に当たり、二割の減額がなされるべきである。

2  同第2項(一)、(二)の事実はすべて認める。

3  同第3項の事実のうち、(一)(6)、(8)、(9)、(10)、(11)は認め、(12)、(13)及び(二)は明らかに争わない。

同(四)は認めるが、その他に、治療費として、合計金一六万一七八〇円(大分県厚生連鶴見病院分が金一四万八二二〇円、フエニツクス脳神経外科病院分が金一万三五六〇円)を、自賠責保険仮渡金として金二〇万円が、被告付保共済金から金一〇〇万円がそれぞれ損害填補されている。

その余の損害については争う。

4  同第4項は認める。

5  同第5項は争う。

三  被告の主張に対する認否

被告主張の損害填補額については明らかに争わない。

第三証拠

証拠関係は本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるからここに引用する。

理由

一1  請求原因第1項の事実のうち、(一)ないし(四)の事実はすべて当事者間に争いがなく、同(五)の事実は被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

ところで、被告は、本件事故と貞夫の死亡との間の因果関係は術前、術後の経過等に鑑み、八割程度寄与したものに過ぎない旨主張するので、これを検討するに、右争いのない事実に、成立に争いのない甲第1ないし12、17、18、20、22(18ないし22は存在とも)、24、31及び原告米子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、貞夫は、四九歳であつた本件事故当時、右手に怪我をしていた以外には健康状態に特に不良な点は窺われなかつたこと、貞夫は、本件事故日である平成三年四月八日午後九時五五分ころ、知人と飲酒遊興後、タクシーで別府市石垣東三丁目七番一七号マルシヨク石垣店先路上まで帰宅し、同道路を自宅に向かつて、やや斜めに歩行横断中、折から被告運転のジープ型普通乗用自動車が時速約五〇キロメートルの速度(制限速度時速三〇キロメートル)で同所(見通しはよい)を通りかかり、被告において道路脇に駐車中の車両に気を取られて、脇見し、前方への注視を怠つたために、道路横断中の貞夫の発見が遅れ、自車左前部で同人の左側面を跳ねたものであること、後頭部裂創があり、救急車にて大分県厚生連鶴見病院に搬送され、前頭葉に脳挫傷があり、骨盤骨骨折も合併していたこと、翌朝のCT検査の結果、出血巣の広がりを認め、意識の低下が見られたことから、要手術ということでフエニツクス脳神経外科病院に転院となつたこと、同病院来院時、貞夫は半昏睡状態であり、左不全片麻痺が認められ、CT検査等の結果、頭部外傷(脳挫傷、脳内出血、頭蓋骨骨折)、水頭症の診断下に、減圧開頭、血腫除去術が施行され、同手術は成功し、術後の経過は良好であつたこと、ところが同月一八日になり、突然心肺停止があり、蘇生にて回復したものの、意識障害は遷延し、水頭症に対し、脳室腹腔短絡術を施行したが、意識の改善は見られず、いわゆる植物状態となり、今後回復は見込めない状態に至つたこと、傷病名としては、頭部外傷(脳挫傷、脳内出血、頭蓋骨骨折)、水頭症及び急性呼吸循環不全による低脳酸素症であるが、急性呼吸循環不全の原因は不明であり、また頭部外傷(脳挫傷、脳内出血、頭蓋骨骨折)、水頭症との因果関係については明確でないとされていること、それ以降も、貞夫は、右のように植物状態となつたままついに回復せず、治療の甲斐なくフエニツクス脳神経外科病院に入院中の平成六年三月一日五二歳で死亡したこと、以上の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

右のように、貞夫の本件事故前の健康状態は良好であつたこと、貞夫の受傷程度からしても、本件事故の態様、程度は相当激しいものであつたことが窺われること、貞夫に対する治療等には過誤等を窺わせるものは何もないこと、急性呼吸循環不全の原因は不明であり、また頭部外傷(脳挫傷、脳内出血、頭蓋骨骨折)、水頭症との因果関係については明確でないとされているに過ぎず、貞夫がいわゆる植物状態となり、そのまま死亡するに至つた原因として本件事故以外には特に顕かなものは何もないことなどの事実を、損害の公平な分担の観点から検討するに、被告主張のように本件事故の貞夫の死亡に対する因果関係としての寄与割合を八割程度のものに過ぎないと特に制限して考えることは相当でなく、被告の右主張は採用しがたいというべきである。

2  請求原因第2項(一)、(二)の各事実は、すべて当事者間に争いがない。

3  したがつて、被告は本件事故につき、後記損害を賠償すべき責任がある。

二  そこで、被告の賠償すべき本件事故による損害の額について判断する。

1  貞夫の損害

(一)  治療費 金一九八万五二三〇円

前認定のように、貞失は、平成三年四月八日、九日を大分県厚生鶴見病院にて、同月九日から死亡した平成六年三月一日までフエニツクス脳神経外科病院にて入院治療したものであるところ、成立に争いのない甲第13、19、21、23(19以下は存在とも)号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第30号証の1ないし7、前掲原告米子本人尋問の結果真正に成立したものと認められる甲第27号証の1ないし19及び同本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、死亡までの治療費として合計は金一九八万五二三〇円の支出をしたことが認められ、同額を本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(二)  オムツ代 金六一万七五〇〇円

前認定のように、貞夫は死亡するまでいわゆる植物状態であり、排尿排便のためのオムツを必要としたことは明らかであるところ、前掲原告米子本人尋問の結果真正に成立したものと認められる甲第26号証の1ないし3、5、7ないし33、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第29号証の1ないし7及び同本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、オムツ代として、死亡した平成六年三月一日まで合計金六一万七五〇〇円を支出したものと認められるから、同額が本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(三)  入院雑費 金一四八万二六〇〇円

前認定のように、貞夫は、本件事故により、いわゆる植物状態となり、その事故日である平成三年四月八日から死亡した平成六年三月一日までの合計一〇五九日間の入院を余儀なくされたものであるところ、その入院雑費としては一日当たり金一四〇〇円が相当であるから、本件事故と相当因果関係ある損害としての入院雑費合計は金一四八万二六〇〇円と認める。

(四)  休業損害及び後遺症による逸失利益 合計金八九六万九〇六〇円

原告らは貞夫の事故日から死亡までの合計一〇五九日間の休業損害を求めているが、前掲甲第17号証によれば、貞夫の症状固定日は、平成三年一〇月九日であることが認められ、前認定のように貞夫はいわゆる植物状態となつたものであるから、その症状固定日まではいわゆる休業損害として、それ以降死亡までは、後遺症(前認定によれば、貞夫の労働能力喪失率は一〇〇パーセントであると認められる)による逸失利益として考えることが相当であるというべきであると考える。

してみると、まず、成立に争いのない甲第28号証の1ないし3及び前掲原告米子本人尋問の結果によれば、貞夫は、有限会社甲斐工務店に勤務していたものであり、平成二年分の給与所得は合計金三三〇万八〇〇〇円であつたことが認められ、本件事故により、その事故日から症状が固定した平成三年一〇月九日までの合計一八五日間休業を余儀なくされたから、それまでの休業損害は金一六七万六六五七円(一円未満切捨て、以下、同様)となる。

計算式:3,308,000×185/365

次に、貞夫は、本件事故による後遺症として、いわゆる植物状態となり、労働能力を一〇〇パーセント喪失したものであるから、右症状固定以降死亡までの間の後遺症による逸失利益を新ホフマン方式にて計算すると、金七二九万二四〇三円となる。

計算式:3,308,000×1.0×[1.8614+(2.7310-1.8614)×144/3651]

よつて、休業損害及び後遺障害による逸失利益の合計は金八九六万九〇六〇円となる。

(五)  死亡による逸失利益 金二五四二万七一四〇円

貞夫は、本件事故により、いわゆる植物状態となる後遺症を負い、その後死亡したものであるが、前認定のように死亡当時は五二歳であつたから就労可能年数は一五年であり、その新ホフマン係数である一〇・九八〇八を乗じて、三割の生活費控除をして、逸失利益を計算すると、金二五四二万七一四〇円となる。

計算式:3,308,000×(1-0.3)×10.9808

(六)  入院慰謝料 金三五〇万円

前認定の貞夫の入院に伴う慰謝料としては金三五〇万円が相当である(当事者間においても争いのないところである)。

(七)  慰謝料 金二五〇〇万円

前認定のように、貞夫は、本件事故当時、四九歳の健康状態も良好な働き盛りの勤労者であつたところ、前認定の態様の本件事故により、いわゆる植物状態にされ、治療の甲斐もなく約三五か月間の入院の後、そのままの状態で五二歳の若さで死亡させられるに至つたものであり、一家の支柱であつた同人が、最愛の妻子を残したまま、かかる悲惨な状態のうちに死に至つたその痛恨、無念の思いは甚大というべく、本件事故の態様、被害者の年齢等、本件に顕れた諸般の事情を総合考慮するならば、これに対する慰謝料は金二五〇〇万円をもつて相当とする。

(八)  葬儀用費用 金一〇〇万円

貞夫の葬儀に伴う費用として金一〇〇万円が相当である(当事者間において争いがない)。

(九)  文書代 金三〇〇〇円

死亡診断書として金三〇〇〇円の支出を余儀なくされた(当事者間において争いがない)もので、同額を本件事故と相当因果関係ある損害として認める。

(一〇)  検査代 金一万〇二〇〇円

治療費以外の検査代として合計金一万〇二〇〇円を別府中央病院に支払つた(当事者間において争いがない)もので、同額を本件事故と相当因果関係ある損害として認める。

(一一)  死後処置料 金三〇〇〇円

死後処置料として金三〇〇〇円をフエニツクス脳神経外科病院に支払つた(当事者間において争いがない)もので、同額を本件事故と相当因果関係ある損害として認める。

(一二)  医師に対する謝礼 金二万円

フエニツクス脳神経外科病院の主治医に対し、謝礼として金二万円を支払つた(被告において明らかに争わないから自白したものとみなす)もので、同額を本件事故と相当因果関係ある損害として認める。

(一三)  禁治産宣告申立ての際の鑑定料 金八万円

成立に争いのない甲第25号証及び弁論の全趣旨によれば、貞夫を原告の一人として本件訴訟を提起する為に、原告米子において貞夫に対して禁治産宣告の申立てをしたことが認められるところ、その際、大分家庭裁判所に対して、鑑定費用として金八万円を納付、支出した(被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす)ものであるから、同額を本件事故と相当因果関係ある損害として認める。

2  貞夫は、平成六年三月一日死亡したので、原告米子が配偶者として二分の一、原告勝利及び原告貴弘が子として各四分の一の割合で、被告に対する損害賠償請求権を相続取得したことは被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

3  原告ら各固有の損害(慰謝料) 合計金三〇〇万円

前認定のように、本件事故により、原告米子はその配偶者を、その余の原告らは父親を、いわゆる植物状態とされ、そのまま一度も回復することもなく、悲惨な状態のうちに亡くしてしまうに至つたものであり、その精神的苦痛は筆舌に記しがたいものがあるというべく、これに対する慰謝料としては、貞夫の年齢、原告米子及びその余の原告らとの身分関係、貞夫固有の認定慰謝料額の程度など本件に顕れた諸般の事情一切を総合考慮すると、原告米子に対し金二〇〇万円を、その余の原告らに対し、各金五〇万円をもつて相当と認める。

4  過失相殺

前認定の本件事故の態様を総合勘案し、貞夫の過失割合は二割と認める(当事者間においても争いがないところである)。

しかして、貞夫の右過失は、原告米子、原告勝利、原告貴弘の損害額を算定するにつき斟酌するのが相当であるから、右過失割合に従つて過失相殺すると、原告米子の損害額は、金二八八三万九〇九二円、原告勝利及び原告貴弘の損害額はそれぞれ金一四〇一万九五四五円となる。

5  損害の填補 合計金三一三六万一七八〇円

貞夫は、自賠責保険より、これまで金三〇〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがなく、その他に、治療費として、合計金一六万一七八〇円(大分県厚生連鶴見病院分が金一四万八二二〇円、フエニツクス脳神経外科病院分が金一万三五六〇円)を、自賠責保険仮渡金として金二〇万円が、被告付保共済金から金一〇〇万円がそれぞれ損害填補されていることは、原告らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

したがつて、本件事故による貞夫の損害に対しては、合計金三一三六万一七八〇円の填補がなされていることとなる。

そうすると、原告米子、原告勝利及び原告貴弘の各損害額は、前記3の各損害額から右填補額を相続割合に従つて各控除(原告米子については二分の一の金一五六八万〇八九〇円が、原告勝利及び原告貴弘については各四分の一の金七八四万〇四四五円が各控除されることとなる)した額となる。

よつて、原告米子の損害額は、金一三一五万八二〇二円となり、原告勝利及び原告貴弘の損害額は、それぞれ金六一七万九一〇〇円となる。

6  弁護士費用 合計金二七〇万円

原告らが、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任したことは、記録上明らかであるところ、本件請求額、認容額、事案の内容、訴訟の難易等の状況によれば、貞夫固有の分は金二四〇万円(したがつて、法定相続分に従い、原告米子に金一二〇万円、原告勝利及び原告貴弘に各金六〇万円が分配される)を、原告米子固有の分は金二〇万円、原告勝利及び原告貴弘各固有の分は各金五万円を、本件事故と相当因果関係ある損害として被告が賠償すべきものと認められる。

三  結論

以上の次第で、被告は、原告米子に対し金一四五五万八二〇二円、原告勝利及び原告貴弘に対しそれぞれ金六八二万九一〇〇円及び右各金員に対する本件事故発生の日である平成三年四月八日から支払ずみまでいずれも年五分の割合による遅延損害金を各支払う義務があり、右原告らの本訴各請求はいずれも右の限度で正当であるからこれを認容し、右原告らのその余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上亮二)

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